医学的視点で医療施設・介護施設のインテリアを考える
医療施設とインテリアの力(全6回)
「同窓会は脳に良い」ある精神科医の方の言葉だ。
遠い記憶がよみがえり、頭の中を駆け巡ることのメリット。同窓会はその「きっかけ」をつくる最高の場だという。
■ライフレビュー
昔の記憶をよみがえらせることを「ライフレビュー」といい、認知症の治療にも活用されていることが知られている。
五感に紐づけられた記憶を思い出す体験は、脳を若返らせるという。記憶のよみがえりがもたらす脳へのメリットを考えると、「同窓会は脳に良い」という理由は医学的に根拠のある話だ、ということだった。
■掲示板の壁面緑化がもたらした効果
インテリアは五感に影響を与え「脳への刺激」となり得る、と実感している。
視覚への影響力を持つインテリアは、まさしく昔の記憶をよみがえらせるきっかけとなり、心を動かす力がある。
ある福祉施設での出来事が、その力を教えてくれた。
共用空間をより心地いい空間にするためのインテリアを担当したときのこと。
グリーンの設置を検討したのだが、床置きだと移動の妨げになることもあり、場所の選定がなかなか難しい。
邪魔にならない位置は目線に入りにくく、本来の目的が果たせない。
その結果、生まれたのが「掲示板の壁面緑化」のアイデア。
もともとどの位置からも視界に入り、車いすなどに座ったときの目線からも見えやすい。
インテリアでは最も目に留まりやすいベストポジションを「フォーカルポイント」というが、まさしく掲示板はこの空間の「フォーカルポイント」だったのだ。
設置当日、グリーンで覆われた壁をみて、驚くような出来事が起こった。
作業時に居合わせた入居者の方々から
「素敵ね~」
「いいね~」
「これは何という植物?」
など、度々話しかけられたのだ。
さらに目の前のグリーンを見て昔の記憶がよみがえったのか、思い出を語り始められた。
ある方は、弟さんが丹精込めて庭を手入れされていた頃のことを色々教えてくださった。
ある方は、今は他界されたご主人が大事にされていた庭が今どうなっているかと、日頃から心配していると話してくださった。
インテリアの役割は、空間を彩り、素敵に魅せるだけではない。あるとき人の視線に飛び込み「心を動かす力」になる。記憶をよみがえらせること、心を動かすことが、その方の「今」に大事なことであれば、インテリアも一つの力になる可能性がある。
人の思い出、記憶は十人十色。五感への刺激もさまざまな方法があるはずだ。
病院や福祉施設にこそ、インテリアが必要とされる場があると考えている。
医学的視点で医療施設・介護施設のインテリアを考える
医療施設とインテリアの力
第1回 「医療施設とインテリアの力」
第2回 「インテリアとプラシーボ効果」
◆第3回 「心を動かすインテリアの力」
第4回 「インテリアからみた公衆衛生学」
第5回 「心の距離感とインテリア」
第6回 「照明と健康」
執筆者紹介
尾田 恵 氏
一般社団法人 日本インテリア健康学協会/株式会社 菜インテリアスタイリング 代表
インテリアデザイナー。大手不動産会社、インテリア事務所勤務を経て、2007年菜インテリアスタイリングを設立。住宅、福祉施設、TV番組など様々なインテリアコーディネート・デザイン、商品開発、情報発信などに携わる。幅広い活動で培った知識・スキルを活かし、インテリアと医療を融合したプロジェクトを基とする、身体と心の健康を目指したインテリア・メソッド「Active Care®」(アクティブ・ケア)を提唱。
2018年「日本インテリア健康学協会(JIHSA)」を設立。医療機関との共同研究にも参画し、新たなインテリアの可能性に向け活動を進めている。
所属:
公益社団法人日本インテリアデザイナー協会(JID) 正会員
経済産業省 JAPAN DESIGNERS 登録
帝京大学大学院 公衆衛生学研究科
照明学会会員 日本頭痛学会会員