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【解説】電気メス

手術の時の最大のリスクである出血。電気メスは、手術時の切開や処置の際の出血を止める凝固のために使用する医療機器です。

▲食肉で電気手術器(電気メス)のバイポーラ電極を試した動画。耳鼻咽喉科の手術に使用する出力(5W程度)での実験だが、変色し、肉の焼ける匂いもした。
(実験協力:第一医科株式会社)

電気メスのしくみ

電気メスは、300~400kHzという高周波電流を細い金属製のメス先からヒトに流入(アーク放電)させることにより、組織などを切開・凝固する医療機器です。つまり、メス先から雷をヒトに向けて連続して落としている、というイメージです。
アクティブ電極(メスの役割をする部分/プローブ)の種類には、1本の細いメス先電極を有したモノポーラ電極と2つの電極を有したピンセット形状のバイポーラ電極があります。

電気メス本体の操作部分 この1台でモノポーラ電極、バイポーラ電極の両方に対応。処置の内容に合わせて切り替えて使用する

電気メス本体で発生させた数A(アンペア)という大きな高周波電流は、モノポーラ電極ではその先から人体へ流入し、切開・凝固作用をおこし、人体を介して対極板(拡散電極)から本体へ回収されます(図1-中央)。
一方、バイポーラ電極は、ピンセット形状の一方の電極からバイポーラ電極で挟んだ微小な人体部分だけに高周波電流を流し、その部分のみで凝固作用をおこし、他方の電極から本体へ回収されます。(図1-右)
電気メスは、電流を流すので、豆電球を乾電池につないだ理科の実験(図1-左)のように閉じたループを作る必要があります。つまり、電気メス回路は、人体を介した閉ループ回路を形成していることになります。

図1:豆電球を点灯させる回路と同じように、電気メス回路も人体を介した閉ループ回路を形成している

モノポーラ電極は、一般外科、心臓血管外科や整形外科など幅広い診療科で使用されています。
一方、バイポーラ電極は、ピンセット形状を有していることにより、脳血管外科、眼科や耳鼻咽喉科など顕微鏡を使用した微細な患部の手術(マイクロサージェリー)などに多用されています。

電気メスのメス先で起こっていること

電気メスのメス先は、幅約2㎜という細い形状で、そこから放電される高周波電流の電流密度は非常に高くなります。密度の高い電流が抵抗値を持った人体へ流れ込むと、流入部で莫大な熱(ジュール熱)が発生します。この仕組みは抵抗値を持った電熱線に電流を流すことで熱を発生させる電気ストーブと同じ原理です。実は電気メスでは、この熱エネルギーを人体に作用させて凝固・切開をおこなっています。

さて、成人の体は、体重の約60%が水で構成されており、その約40%の水が細胞内にあります。連続的に高周波電流が流入した部分の細胞内の水は、一瞬にしてジュール熱により100℃以上になり、沸騰して蒸気になり吹き飛んでしまいます。これを蒸気爆発といいます。つまり、細胞と細胞をつないでいた細胞が吹き飛んで無くなってしまうことで切開という作用がおこるのです(図2)。
手術をする場所によって電気メスの出力の大きさは変わりますが、一般的な外科手術の場合は、約30W(ワット)程度です。

図2:電気メスによる切開の原理

一方、断続的に高周波電流を流入させると蒸気爆発はおこらず、約80℃のジュール熱により血液やタンパクが変性して固まります。つまり、損傷して出血をおこしている血管断端部が凝固され、結果として止血されます。 また、電気メスで切開すると切開部周辺の毛細血管は損傷しますが、切開と同時に発生するジュール熱で凝固されます(図3)。これが電気メスを使用すると出血を最小限に抑えられる理由です。マイクロサージェリーなどの微細な部分の手術の場合、電気メスの出力の大きさは、約5~10W(ワット)程度です。

図3:電気メスによる凝固(止血)の原理

高周波電流を使う理由とリスク

人体の電撃閾値(いきち)には周波数依存性があり、家庭のコンセントから流れるいわゆる商用電流(50,60Hz)や直流(0Hz)のような低周波数の電流ではヒトはビリビリと感電しますが、高周波数であれば数A(アンペア)という大きな電流を流してもヒトは感電しにくくなります。大きな電流を人体に流し、莫大な熱量を発生させるためには、安全を考えて高周波電流である必要があるのです。
しかし、高周波電流を使用することにはノイズを発生するというデメリットもあります。例えば、心電図モニタにノイズが乗れば心電図が読み取れなくなりますし、電気メス本体の近くに他の医療機器を接近させて設置すると、その機器にノイズを起因とする誤作動が起こす可能性があります。
電気メスは、非常に有用な医療機器ですが、使用するエネルギーが大きいためその取り扱いには注意が必要で、手術には電気メスをはじめとする医療機器全般に精通した臨床工学技士が立ち合う機会が増えています。

執筆者紹介
橘 克典 氏
大阪電気通信大学 医療福祉工学部 医療福祉工学科 講師
臨床工学技士
専門分野:臨床工学
日本臨床工学会、日本医療機器学会、日本体外循環技術医学会 所属

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