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第2回 救急医療における医療の変遷

連載「医療パラダイム・シフト」論 ~少し未来の医療のカタチ~
日本の医療では、政府主導で世界中の人々に必要な最先端の医療技術を提供するために、日々基礎研究や臨床研究が行われています。今、日本で始まろうとしている、新たな医療改革=パラダイム・シフトを、先進的な技術とともにお伝えしようと思います。
(一般社団法人Medicla Excellence JAPAN 理事長 山本修三)


前回、チャートに示したように、経済と医療の進化は密接に関係しています。
国が発展し国土開発が進むと自動車やバイクが増え始めます。その時に避けられないのが、交通事故です。
交通事故傷者に対する救急医療の進歩により、交通事故死の減少という結果を得るとともにその国の医療は広く発展し、高齢化、超高齢化が進むと救急医療は少し形を変え始めます。
経済や国家の成長と医療の進化の関係を、救急医療を例に5つの段階に分けてお話しようと思います。

第1段階 環境とルールで交通事故死亡者を減らそうとする段階
経済発展の基盤となる交通環境が整い車やバイクが普及し始めると、交通事故が多発し、それに伴う交通事故死亡者数の増大が社会問題になります。
国家は、それに歯止めをかけるため、信号機や標識の設置、円滑でより安全な交通網を整える一方、交通法規の整備と周知・取り締まりといったソフト面でも対処しようとします。
この段階では、まだ交通事故と医療に直接的な関係性はありません。

▲増え続ける交通事故を減らすため、交差点には信号機や標識が設置され、高速道路などの交通網も充実する

第2段階 交通事故患者の命を救おうと医療レベルが向上する段階

経済発展により交通量が増えると、残念ながら交通事故は増加し続けます。環境整備とルールでの対処は進めているものの、事故発生後、命を救う対策の遅れが批判されるようになります。

ここで、国家として、事故患者の命を救うための準備、すなわち救急医療体制の整備が始まります。

救急医療は患者の生死に直結するため、高度で迅速な判断が求められます。
また、そこに従事する人の使命感は高く、国全体での整備が必要となり、結果としてその国の医療レベルが急速に向上しはじめます。

第3段階 救命救急の死亡となる要因を減少させようとする段階
社会インフラ、一定の救急医療体制、相応の医療社会システムとして救急医療が順次整備されていくと、救える命を増やすための対処が求められはじめます。
救命救急は時間との戦いでもあるため、確実な通報手段の整備、患者のもとへの到達時間の短縮、患者の搬送先(医療機関)の受け入れ体制を整える段階に入ります。救急搬送システムが高度化し、救急車、救急ヘリ等の救急搬送網が整備されるのもこの段階です。

▲救急車や救急ヘリなど、患者をより早く医療機関へ搬送するための救急搬送網が整備される(画像提供:朝日航洋株式会社)

また、通報、心肺蘇生、除細動、二次救命処置の迅速化が重要視され、各種の体制整備が進み、外傷や病変患者を迅速かつ正確に診断するため、救急画像診断体制を持つ中核的な救急拠点が整備されます。

医療以外の分野でも、シートベルト、エアバッグ、自動ブレーキなどの装備・装着の普及など、事故防止や重篤な交通外傷の防止対策として、自動車側にも安全基準が設けられるようになります。

第4段階 脳や心臓の緊急性の高い疾病対応が増す段階

社会が成熟し、人口動態の変化によって高齢化が始まると、救命救急のニーズが交通外傷から脳卒中や心筋梗塞などへの対応へと変化していきます。これらは、生死を彷徨うような重篤な急性病変状態で、迅速な診断と処置がその予後にも大きく影響することから、集学的診療へと救急医療体制が進化します。

▲頭部CT画像。数分で撮影が終了し、即座にパソコン画面でスキャンした脳内画像を確認できる

第5段階 急性病変を予見し予防するニーズが高まる段階
超高齢化から超超高齢化社会への進展は急性病変の増大を招きます。急性病変患者は集中治療や集学的医療で対処するため医療資源量を多量に消費します。また、対処が遅れると障害が残るなど予後も悪く、介護が必要になるなど社会的損出も大きいため、高齢者の急性病変対策は医療応需から疾病抑制にシフトしていきます。
急性病変対策の普及は、医療支出の抑制にとって大変重要です。

▲急変病変兆候を早期発見する予防健診が普及する
急性病変を予見できるバイタルセンサー等が普及し、バイタル情報を常時監視常時診断する医療社会のIoTインフラが整備される。すでにスマートフォンと連動する簡易的なもの(写真左)から、医療機関と連携する医療機器(写真右/画像協力・株式会社トーカイ)まで存在する。

このように、国の経済の発展と社会の成熟、さらには人口動態の変化に伴って、救急医療が発展し、その国の医療性能を成長させていくのです。

執筆者紹介
山本修三氏
一般社団法人 Medical Excelence JAPAN 代表理事(理事長)
慶応義塾大学 医学部 客員教授
日本病院会 名誉会長

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