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音のプロに聞いてみた~透析治療室の音をなんとかする方法(全5回)

第4回 機械はなぜ音がするのか

 にっぽんの病院・編集部(以下:NPB) 前回までで、音についていろいろ教えていただきました。 今回からは2回にわたって、当プロジェクトの最初の課題「透析監視装置の音をなんとかする方法」について、具体的なお話をうかがいたいと思います。

透析監視装置に限らず、機械からは必ず何かしらの音がします。
大きなところでは工事現場の重機、工場の機械など、家庭でも掃除機や洗濯機は大きな音を出しますし、パソコンやエアコンも何かしら音がしていて、電源を落としたら静かになった、と思うくらいです。
この音の元はいったい何なのでしょう?


▲機械は必ず何かしらの音を出している

 株式会社小野測器様(以下:小野測器) 音の発生原因は、大きく2つに分けられます。一つは、構造物の振動、もう一つは空気の乱れです。
前回話題にしていた歯医者さんの回転切削器具のエアータービンによる音は、直接的に空気を乱すことで音が発生する一つの例といえます。

(株式会社小野測器)
電子計測機器、電子応用機器、電子制御装置及びその関連機器などを製造・販売するメーカー。
本シリーズは、同社サイト内に掲載の「身近な計測」を執筆された石田康二氏がご担当くださいました。

構造物の振動から発生する場合は、空気に接している構造物の部材(主には板材)が振動して近接している空気を振動させることによって、音が発生します。
機械からの音の発生は、稼働時の振動からはじまる場合がほとんどです。

機械が室内にあって、その音が同じ室内にいる人にとって騒音となっている場合、機械の音は、機械の可動部の振動源から、振動は機械内部の構造体へと伝搬し、さらに環境(空気)に接している筐体(機械を囲うケース)へ伝わり、筐体表面の振動が筐体の直近の空気を振動させて音として空気中に放射されます。


▲機械の音は、振動源→内部の構造体→筐体へと伝わり、空気を振動させて音として空気中に放射される

空気中に放射された音は、受聴者の耳へ直接届く音もあれば、室内の壁、天井、床や什器などで反射したり、または家具などで吸音されたりして(布のソファーなど軟かい材料は吸音効果があります)僅かな時間遅れで受聴者の耳に到達します。

先に述べたように音源側からアプローチするとなると、まず、稼働するときの機械の起振源のメカニズムを知ることが第一です。
どのような運動によって機械が動いているのか、駆動部の回転運動や往復運動などが考えられますが、その運動の周期と、問題になっている音の周波数とが関係しているかどうか。
さらには、その機械の内部の振動の伝わり方を、駆動部から筐体表面まで丁寧に見ていく事も必要になります。

 NPB  音の元を、音源に近いところ、つまり機器の場合は内部での対策が効果的なことはわかりました。
ただ、医療機器の構造は私たちには変えられませんし、筐体に直接何かをつけると機器内に影響がありそうです。
機器内部での対策は、各医療機器メーカーの方たちも取り組んでおられると聞きますので、そこはお任せして、にっぽんの病院では、機器の外側でできることを考えていきたいです。内側と外側両方で対策できれば、より音環境はよくなると思います。

先ほど、「室内の壁、天井、床や什器などで反射したり、または家具などで吸音して僅かな時間遅れで受聴者の耳に到達」するとのお話しでしたが、吸音されると音は小さくなるのではないのでしょうか?

 小野測器  はい、吸音されると音は小さくなります。
室内の音の振る舞いについて、理論に興味のある方は、以下にあるリンクの内容をご参照いただければ、音響パワーレベル、音圧レベルなどの技術用語や数式も出てきますが、それぞれの関係がご理解いただけると思います。

【参考】「計測コラムー音の測定の基礎」より
音の大きさ、レベル
音響パワーレベル
音響パワーレベルと室内音圧レベルの関係
(いずれも小野測器社・サイトへ)

さて、本題にもどりましょう。
ある空間に音源があって、その空間内にいる受聴者の位置での音の大きさを決める要素は、そもそもの音源の大きさの他に2つあります。音源から受聴者の耳の位置までの距離 r と、室内の壁、天井、床の吸音の程度 R です
もし、室内の壁や天井などの境界がないと仮定した場合、 r のみが受聴位置の音のレベルを決めます。そのような音場を「自由空間」と呼びますが、現実世界では、空高く音源が位置する場合は別にして、無響室以外にありません。
また、広大な野外はどうかというと、地面からの1回反射のみが存在するので、そのような空間を半自由空間と呼びます。


▲無響室は人工的に作り出した自由空間では、
音源から受聴者の耳の位置までの距離 r のみが受聴位置の音のレベルを決める

直接音の距離減衰のみを考慮すればよい自由空間では、 r が2倍になると、音は6dB減衰します。(なぜ6dBかは上記のリンク先を参照してください)。
6dBがどのくらいかというと、音の感覚的な大きさが70~60%程度になるぐらいの量です。
r が4倍になると12dB小さくなります。音の大きさは半分以下になります。
ですから、例えば1mから4mに音源の位置を離せば、音の大きさは半分以下になるということです。


▲自由空間では、音源からの距離 r が2倍になると6dB小さくなる

実際の空間では、そのレベルに、拡散音(=室内の壁や天井などで反射を繰り返して、受聴者に到達する音の群)を加算した音が、受聴音のレベルになります。

機械から放射される音は、360度様々な方向に向かって進み、壁や天井で反射します。
様々な方向に向かって放たれる音の強さの分布が音源の指向性になりますが、ここでは、指向性はひとまず置いておきます。
壁や天井や床が、コンクリートのような硬い材料(反射率が99%とほぼ100%に近い)の場合、音の減衰は、反射音も直接音と同様、上述した距離減衰の倍距離で6dBの法則に基づいて減衰します。
壁や天井で反射した音は、1回反射で受聴者に到達する音もあれば、さらに距離減衰をしながら反射を繰り返します。

したがって、もし反射面に吸音性があれば反射ごとに減衰し、吸音性のない(低い)内装材にくらべて、受聴者に到達する音のレベルもより小さいものになります。
前述したように、直接音に拡散音を加算した音が受聴点の音のレベルなので、壁や天井で吸音して R(室内の壁、天井、床の吸音の程度) を大きくすることで、トータルの音の大きさは減じられます。


▲右の部屋のように、壁・床・天井に吸音性の高い素材を使うとトータルの音の大きさは小さくできる

物理的な減衰量としての効果は、音源対策や、音源位置から距離を取ることに比べ限定的ではありますが、音の響きが抑えられるので感覚的な効果があります。
壁や天井は、基本的にすでに環境として与えられている場合が前提ですが、対策としては、厚手のカーテンを用いたり、天井に吸音材を付加する方法も取ることができます。
機械周辺に遮音パネルを付加したり、障壁を立てるなどの対策もありますが、機能面を失いかねないので、ケースバイケースで機器の機能と音環境を両立させるような対策を案出することが求められます。

(にっぽんの病院編集部 2021/09/24)

音のプロに聞いてみた ~透析治療室の音をなんとかする方法

 第1回 心地よい音とは? ~心地よい音と不快な音~
 第2回 アナログ音とデジタル音はどう違う? ~Web会議の音声がしんどいのはなぜ?~
 第3回 音を変える方法 ~大きさを変える方法、音色を変える方法~
◆第4回 機械はなぜ音がするのか?
 第5回 「音を設計する」~透析治療室内を快適な音環境にするには?~