佐久間 研人 氏
L&Kメディカルアートクリエイターズ株式会社 代表取締役
医学医療の知識とイラストの描画技術を駆使し、依頼者が伝えたい医療情報を適切に表現したイラストを「メディカルイラストレーション」といい、その表現者を「メディカルイラストレーター」と呼ぶ。
メディカルイラストレーションが医学医療に関する情報を正しく伝え、健康への理解を深めるためのツールとして、当たり前に活用される世界を目指す、佐久間研人氏にお話を伺った。
― メディカルイラストレーション。
想像はできますが、言葉としては初めて聞きました。その定義を教えてください。
佐久間氏:メディカルイラストレーションとは、研究・論文・臨床・記録・教育に資する「医学医療の可視化に必要な図画図版」のことです。
そのため、メディカルイラストレーションは、医学医療の知識を駆使して「誰」に「何」を伝えたいのかを的確に表現したものである必要があります。
―写真や動画がこれだけ普及している今、なぜイラストなのでしょう?
佐久間氏:ありのままを見せることが目的なら写真が正確ですし、一連の流れを見せたいなら動画が良いと思います。
では、なぜイラストなのかというと、それは「正確さ」や「流れ」では表現できないことを表現し、伝えることができるからです。
イラストは表現したい瞬間を切り取った上で、見えないものを描き足したり、裏側を示したり、余分な要素を省いたりしながら、本当に伝えたい情報を強調することができます。また、目的によって、超リアルに描くことも、デフォルメして見やすく描くこともできます。
そこが、イラストの良さであり、必要とされている理由です。
写真や動画が普及したことで表現の手段が増え、選択の幅が広まった今こそ、イラストの担う役割が明確になってきたと思っています。
― メディカルイラストレーションを描く専門家、メディカルイラストレーターは日本にどのくらいいるのですか?
佐久間氏:はっきりとした数字はわかりませんが、2018年に日本メディカルイラストレーション学会雑誌に掲載された論文(*)によると、医療を専門としたイラストレーターは50人程度と推測されています。
*)明石道昭:世界のメディカルイラストレーション事情と日本メディカルイラストレーション学会誕生までの道のり.日本メディカルイラストレーション学会雑誌,2018;1:25-39.
― メディカルイラストレーターに求められるスキルは何でしょう?
佐久間氏:当社が示すメディカルイラストレーターとは「医学医療に関する基礎的な知識を有し、表現のプロとして求められた意味を理解し、情報を伝えるために効果的な表現を作図し、時にはポイントの強調や省略を用い、ニーズに即した最適なイラストを提案できるイラストレーター」です。
クライアントが伝えたいことがメスで切り込む角度なら、対象となる部分とメスの角度が明確にわかるように表現する。
依頼者が求めるニーズを理解したうえで、ニーズに即した構図や表現をビジュアルのプロとして提案できる、そういったスキルが必要です。
メディカルイラストレーターは高度な知識と技術を有する専門職なのです。
― 最後に、貴社の展望をお聞かせください。
佐久間氏:欧米では古くからメディカルイラストレーターの職能団体や学術組織があり、メディカルイラストレーターの職域や地位が確立されていました。
一方で、日本ではその歴史は遥かに浅く、「日本メディカルイラストレーション学会」が学術組織として2016年に創設されたばかりで、職能団体はまだありません。現在、当社ではメディカルイラストレーションが日本に根付き、職業として確立するための方法を模索しています。
私が目指す将来は、日本のメディカルイラストレーションが世界に誇れる“モノ”に成長し、医学医療の情報が必要な“ヒト”が、身近にあるメディカルイラストレーションを当たり前の“コト”として意識せずに利用するという世の中です。
そのために当社は尽力していきたいと考えています。
― 本日は貴重なお話をありがとうございました。(2021年12月)
Medical Museum / The world of medical illustration
日本におけるメディカルイラストレーションの第一人者、レオン佐久間氏が立ち上げたメディカルイラストレーションの総合Webサイト。
メディカルイラストレーション作成依頼の流れや、学術雑誌等に掲載されたメディカルイラストレーションのアーカイブなど、メディカルイラストレーションとメディカルイラストレーターについての情報を得ることができる。