堀江やまびこ診療所の診察科目は腎臓内科/人工透析内科。早朝、夜間、日曜日にも透析治療を受けられる透析センターを有する。
大阪市内にある同診療所は2フロア、1階には診療室や検査室、手術室(シャント手術などに対応)があり、今回は2階の透析センターを見学した。
お話をうかがった方
下図は堀江やまびこ診療所2階のレイアウト(概略)。
23の半個室ブースと6つの完全個室、合わせて29の透析スペース、さらに予備の透析スペースも設置している。
エレベーターや階段などの共有スペース(図下側のグレー部分)を除くと個室以外は大きな一部屋という扱いになる。
リラックスして透析を受けてほしいという理由から、全体的なインテリアのベースカラーは深見のあるブラウン。
床材は、夜間にスタッフが歩きまわっても足音が気にならないこと、どうしても血液が落ちるため汚れが取れやすいことを、また、壁材は傷がつきにくいことを優先し、いずれも医療用素材(機能性素材)ではないメーカーカタログから選んだそう。
天井にも濃いめのブラウンを使うことで光の反射を少なくし、患者の眼の負担を軽減、もちろん照明の位置も工夫している。
患者同士のプライバシー確保のために全床半個室または個室化した。
透析ブースの間仕切りの高さを170cmにしたのも通路から覗けない高さにするためだ。この高さなら透析装置のアラートも間仕切り越しに目視が可能だ。透析用ブースの間仕切り(壁)は、建築家具として設計してコストを抑えた。
透析センターでは空調に関するクレームが最も多い。一般的には空調の吹き出し口の近くと遠くではどうしても温度にむらができること、暑い/寒いの感じ方には個人差があること、そして長時間ベッドの上で動かないことがその理由。
そこで採用したのが低風速循環式空調、設計を担当した株式会社ゆう建築設計の”ゆう空調”というシステムだ。
低風速循環式空調は、その名のとおり冷暖房装置から低風速で暖/冷風を吹き出し、各ブースのベッドサイドで吸い込むことで暖かい/涼しい空気を呼び込み、再度天井裏へ戻して循環させるというもの。
透析時には扉を閉めるので、ブースの上からしか空気は流れ込まない。各部屋の吸い込む力を調整することで各自調整も行える。
全室に設置したカメラの映像が常時表示されていているモニタと、電子カルテ閲覧用モニタなどを設置。
医師1名(常時)、スタッフ2~5名(時間帯による)が常駐している。
トイレやシャワールームのバリアフリー対応はもちろん、車椅子利用者にも通りやすいように通路幅は2mとし、床にはなるべく物を置かないようにしている。
茂原 氏(堀江やまびこ診療所):
採算ベースで考えて30床を最低ラインとして、透析センターの条件をクリアする物件を探すのに1年半かかりました。
患者さんが週3回以上、出勤前や仕事終わりに透析を受けることを考えると、仕事場に近い大阪市内というのは外せない条件でした。
1フロアの面積も重要です。総面積は同じでもフロアを分けるとフロアごとにスタッフが必要になります。夜間は医師1名とスタッフ2名が常駐しますので、その人数で管理できる上限が30床、それくらいの面積が必要でした。
また、人工透析には水をたくさん使うので、上下水の設備にも条件がありますし、一般のクリニック以上に透析センターの条件をクリアする物件は少ない。いい物件に出会えてよかったです。
結果として当初の設定より1床少ない29床になりましたが、長時間をここで過ごす透析患者さんの快適さを優先した結果なので満足しています。
矢木 氏(株式会社ゆう建築設計):
設計に6か月、施工に4か月。これはこの規模の施設では最短のスケジュールです。
それを実現できたのは、この物件のオーナーが一級建築士でドクターという方で、施主の思いも、設計面での条件や設備のことも理解してくださったことが大きかったです。
けれど、どこかの部分、誰かが「まぁ、このくらいでいいかな」と思ってしまうと良いものはできません。
打ち合わせの回数や密度、それが情熱だと思うのですが、施設のオーナーである茂原先生、施工者、建物のオーナー、設計者(ゆう設計・矢木氏)の4者が時間のない中で情熱を持って、うまくかみ合った結果です。
とても良いものができたなと思います。
(取材:にっぽんの病院編集部)