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患者が見た医療施設のデザイン
2.透析室の問題

【執筆者紹介】
岩崎義弘氏(執筆者)
株式会社PPnR 代表取締役

今回は、私も利用している透析クリニックについてです。
一般に透析クリニックでは毎回同じ部屋やベッドを利用します。そのため、大型病院ほどサイン計画を重視する必要はありません。ただし週に3~4回、長時間寝たままでいる特殊な治療環境なので、やはり快適に過ごせることは重要な要素です。

騒音の問題

透析クリニックは、たくさんのベッドと透析装置が並び、明るいて無機質な部屋、そんなイメージです。
ここで患者さんはベッドに横たわり、週3~4回、短い方で3時間、長い方だと10時間程度の透析を行います。


一般的な透析センターのイメージ

透析をしていて一番気になるのは”音”です。

複数の透析装置が同時に稼働していると、それは騒音になります。
ベッドの両サイドからの装置音は、これがなかなか騒々しく、例えるなら空気清浄機がフル稼働しながらアラームをピーピー鳴らしているような感じ、といえば想像していただけるでしょうか。
わたしは個室でオーバーナイト透析をしているのですが、眠るときは耳栓をしてもゴーッという音が気になるレベルです。(注:大量に水を使うため、使用中はずっとポンプ音がしている)
特に枕元の自分が使っている装置だけでも気になるくらいで、透析装置とベッドの間に仕切り板が一枚あれば、もう少し静か感じるのかもしれません。


透析装置とベッドの間に仕切り板のあるイメージ。吸音素材を使うとより良いかもしれない。

透析装置の改良

私も含めて自分で穿刺や止血をする人は、透析装置が穿刺している腕の方にあるため、穿刺後、透析時のスタート設定、透析中や透析後にアラームを止めたり、返血や血圧測定などを右手で行うにはパネル位置が高く離れており扱いづらいです。
ちょっと寝起きするだけで圧が変わってアラームが鳴ったりもします。
おそらくスタッフや介助者が扱うことを前提にデザインされているのだと思うのですが、自分で操作される方もいますので、パネルを少し縦長の画面にして低い位置にしたり、有線でよいのでリモコンで操作できるととても助かります。静音・遮音性と合わせてぜひご検討ください。


一般的な透析装置の設置イメージ(左)と、モニターを低く患者向けにしたイメ―ジ。

プライバシー問題

少ないスタッフ数で多くの患者さんの面倒を見る必要があるため、透析装置のエラーがすぐにわかる見通しの良さや、スタッフが効率よく動ける配置は医療ミスを防ぐためには必要ですが、これは患者同士のプライバシーと引き換えになります。

ベッド数の多いクリニックでは、中には大きな声で怒鳴る方がいたり、認知症の方がいたり、男性女性が隣同士でならんでいたりと、心理的には落ち着かない空間ではあります。
患者さん同士の会話、食事の匂いも気になりますし、大声でスタッフを怒鳴りつける方がいたりするのも不愉快です。(患者側のモラルもなんとかしたいですね)

間仕切りの向こうで行われる心電図や心エコー検査は気になりますし、わかっていてもベッドや通路の間をスタッフが移動すると気になります。
そんなストレスを感じつつ長時間をすごす透析の空間は、肉体だけでなく精神的にも厳しい環境だといえます。

トイレ、シャワーなどの設備も、バリアフリータイプで男女共用だったりという場合もあります。

現状では多くのクリニックでそれが当たり前のように受け入れられてしまっているのですが、今後の課題として取り組んでほしいところです。

現在の透析クリニック

私が現在通っている透析クリニック(堀江やまびこ診療所)では、従来の透析クリニックとは大きく異なる、ちょっとしたホテルのようなデザインを採用しています。
ベッドはすべて半個室もしくは個室にあり、フロアあたりの病床数も少なく、長時間の透析でも周囲の患者さんからの視線が気になりません。
従来の白を基調とした清潔感のあるクリニックもいいのですが、ベッドがずらりと並んでいるあの風景は利用者として緊張感が増したり、気分が重くなることもありました。
こちらのクリニックは木目を基調とした壁紙や落ち着いた暖色系の照明で、穿刺時以外はベッド上の照明を落とせるため、心身への負担も軽減されました。

他のクリニックでもベッド間を広くとってベッドの間に間仕切り板を設置したり、配光に工夫して患者さんへの負担を軽減するよう設計されているクリニックも増えてきました。
こういう透析施設が増え、透析患者の負担が軽減されるといいなと思います。


岩崎さんが利用しているクリニック。通路の左右に半個室の透析”ブース”が並んでいる。
レポート記事はこちら⇒【にっぽんの透析センター ~堀江やまびこ診療所~

最後に

透析クリニックはかなり特殊な環境といえますが、現時点では腎移植以外に慢性腎不全から脱する方法はなく、クリニックで過ごす長い時間は、患者さんの、特に働く世代の患者さんには貴重な時間でもあります。
その貴重な時間を、透析をして過ごすだけではなく、仕事や読書、静かな環境での考え事に使えること、オーバーナイト透析では睡眠に使えることは、患者さんには重要です。
快適に過ごすためのインテリアデザインは、見た目や集客を考えるだけではなく、患者自身のQOLにも大きく影響するものだと実感しています。

残念ながら、日本の入院病棟には、男女が同じフロアに入院していたり、トイレはバリアフリータイプのものだけ、お風呂や洗濯機は共用というところもあるようです。また、近年のLGBT(SOGI)問題に対してはまだまだ踏み込めていないところが多いように感じます。
医療者の皆さんも気づいているとは思いますが、患者の側からすればそこには大きな違和感があります。

クリニックの改装や入院患者のフロア分けなどは、施設側の負担も大きく、なかなか取り掛かれないことなのかもしれませんが、これからは医療施設だからという理由での”特別”が難しくなっていくように思います。