トップ  >  コラムと連載  >  医療施設とインテリアの力

医学的視点で医療施設・介護施設のインテリアを考える
医療施設とインテリアの力(全6回)

第2回 インテリアとプラシーボ効果

インテリアは右脳で捉えるものだといわれる。
まずは、こちらの2枚の画像を見て欲しい。印象に残るのはどちらだろう?


■プラシーボ効果

例えば、ある空間が左右同じ条件なら、見せたいものを左側にディスプレイした方が、人の印象に残りやすい。一般的に右脳が司る左目の方がインテリアイメージを効果的に捉えやすい、というのが理由だ。
これを「フォーカルポイント(見せ場)」といい、アートやオブジェを飾る際のテクニックになっている。


また別のケースでは、色がもたらす「体感温度」を利用するときもある。
寒さを解消したい浴室リフォームの場合、脱衣所も含め極力「暖色」を選ぶと温かさがアップする。これは色による体感温度の差がもたらすもので、真の室温は同じでも、暖色と寒色を比較した場合、約3℃感じ方が違うといわれている。


▲暖色系と寒色系のインテリア


人は空間を「イメージ」として捉えるからこそ、この法則さえ掴めば、同じ空間をプラスにもマイナスにも魅せることができる。


私自身、良い環境が人に良い効果をもたらすケースに出会ってきた。
空間が変わることによる行動変容、コミュニケーションの増加、生活リズム・睡眠の改善などにもつながった。

これはインテリアによる「プラシーボ効果」といえるのではないだろうか。
癒されそう、楽しそう、温かそうなど、イメージによって人の心に訴えかけるのはインテリアが得意とする分野である。
逆に冷たそう、緊張する、恐そうというイメージで空間をつくれば、その通りの反応が返ってくる。


■インテリアの特性を医療施設へ

プラシーボ効果が脳に強く関係していることから考えれば、インテリアの特性こそ医療施設でぜひ活用してほしいと願っている。


「殺風景な景色」という言葉は、ある看護師の方から伺った。
特に集中治療室では風景や機械音から緊張したりパニックになったりする患者さんが多いそうで、心の緊張を和らげるためのさまざまな工夫を試していたそうだ。

医療施設の機能性を損ねない範囲で、プラシーボ効果につながるインテリアはいろいろある。
先程のフォーカルポイント手法は逆の考えでも使える。見せたくない機器類は印象に残りにくい右側に置くといい。


▲集中治療室のイメージ。機器を右側に配置したほうがスッキリした印象になっている


照明の色、明るさの影響も大きい。刺激を極力和らげるには、間接照明もおすすめだ。
(参考:第1回 医療施設とインテリアの力

天井の高さをより高く見せたいとき、廊下をより長く(広く)見せたいときには、ストライプ柄の壁紙も使える。
強調したい方向にストライプの流れをつくることで、空間の圧迫感が和らぐ。


▲同じ空間でも、壁紙、照明の色で大きく印象が変わる


インテリアによる心理作用の活用は、医療施設の新たな可能性につながると考えている。


医学的視点で医療施設・介護施設のインテリアを考える
医療施設とインテリアの力

 第1回 「医療施設とインテリアの力」
◆第2回 「インテリアとプラシーボ効果」
 第3回 「心を動かすインテリアの力」
 第4回 「インテリアからみた公衆衛生学」
 第5回 「心の距離感とインテリア」
 第6回 「照明と健康」


執筆者紹介

尾田 恵
一般社団法人 日本インテリア健康学協会/株式会社 菜インテリアスタイリング 代表

インテリアデザイナー。大手不動産会社、インテリア事務所勤務を経て、2007年菜インテリアスタイリングを設立。住宅、福祉施設、TV番組など様々なインテリアコーディネート・デザイン、商品開発、情報発信などに携わる。幅広い活動で培った知識・スキルを活かし、インテリアと医療を融合したプロジェクトを基とする、身体と心の健康を目指したインテリア・メソッド「Active Care®」(アクティブ・ケア)を提唱。
2018年「日本インテリア健康学協会(JIHSA)」を設立。医療機関との共同研究にも参画し、新たなインテリアの可能性に向け活動を進めている。


所属:
公益社団法人日本インテリアデザイナー協会(JID) 正会員
経済産業省 JAPAN DESIGNERS 登録
帝京大学大学院 公衆衛生学研究科
照明学会会員 日本頭痛学会会員