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医学的視点で医療施設・介護施設のインテリアを考える
医療施設とインテリアの力(全6回)

第6回 照明と健康(最終回)

照明が人にもたらす影響は大きい。
だから私は「インテリアと健康」を考える上で、光の使い方には人一倍こだわってきた。

そもそも照明は空間演出には欠かせない存在であり、インテリアデザインの世界では印象を大きく左右する要素として知られてきた。光源の選び方や配置、組み合わせを上手くアレンジできれば、コスト以上(器具代以上)のメリットが得られる点も、デザイナー心を掻き立てる。
空間デザインに関わる上で、絶対外せないのが照明だ。
また同時に「日常生活においてモノを照らし、人に正しく認識させる」という機能的な役割も担う。
作業を円滑に進めるに重要な役割を果たすため、JIS(日本工業規格)においては照度や演色性の基準が設けられている。
特に病院やオフィスなど、安全な作業環境確保が必要な空間計画では、照度基準が目安とされる。


▲JISによる照度基準(病院編)

しかし光について、健康や人にもたらす影響という、別の視点で見てみるとどうだろう。対象が「ヒト」の場合、快適性や温涼感に関係する「光色(色温度)」の影響は大きい。

これまでに本コラムの中でご紹介した、片頭痛に配慮した看護師寮クリニックや休憩室のリニューアル事例で重要なカギを握っていたのも「色温度」である。
実は、空間用途に合わせ色温度を適切に扱うことこそ、人の健康にとって重要なポイントなのだ。現在色温度は、空間イメージや好みに添って選ばれるもの、と考えられることが一般的なため、照度や演色性のように基準となる指標は存在していない。
ただ将来、インテリアと医療の融合によって、人を健康に導く新たな基準、指標が生まれることを願っている。


▲昼光色(青く白い光):左側と電球色(オレンジ色):右側
「ヒト」を対象に考えると、光は色によって印象も影響も異なる


医療施設には、光色の使い分けが活かされる場面が多いのではないだろうか。
例えば神経内科、脳神経クリニックのように片頭痛患者さんが多い空間であれば、診察室においても光過敏の方が苦手な明るすぎる白い光、白い内装を避けることが、患者さん目線の施設計画につながるように思う。



▲「アクティブ・ケア」の考えをもとにリニューアルした脳神経クリニックの診察室の
ビフォー(上)・アフター(下)


患者さんが緊張せず話しやすい、心身に優しい環境があれば、治療もスムーズになるかもしれない。同じように、病院スタッフにもリラックスできる休憩室があれば、日々のストレスを少しでも緩和できる可能性が広がるのではないだろうか。→参考:第1回 医療施設とインテリアの力

現在の照明器具は、LEDの普及によってラインナップも豊富になった。調色や調光、さらに間接照明も手軽に取り入れられる。
光色を味方につければ、施設計画にコスト以上のメリットをもたらすことは間違いない。
照明は明るく白い方が、空間が広くみえ、清潔感があっていい。確かに空間の魅せ方として間違いではないが、果たしてそれだけでよいのだろうか。ヒトを主役に考えると、照明には全く違った役割、アプローチが見えてくる。

人に優しい医療施設づくりに、光が果たす役割は大きい。
同時に、空間価値にもたらす可能性も大きいと感じている。


医学的視点で医療施設・介護施設のインテリアを考える
医療施設とインテリアの力

 第1回 「医療施設とインテリアの力」
 第2回 「インテリアとプラシーボ効果」
 第3回 「心を動かすインテリアの力」
 第4回 「インテリアからみた公衆衛生学」
 第5回 「心の距離感とインテリア」
◆第6回 「照明と健康」


執筆者紹介

尾田 恵
一般社団法人 日本インテリア健康学協会/株式会社 菜インテリアスタイリング 代表

インテリアデザイナー。大手不動産会社、インテリア事務所勤務を経て、2007年菜インテリアスタイリングを設立。住宅、福祉施設、TV番組など様々なインテリアコーディネート・デザイン、商品開発、情報発信などに携わる。幅広い活動で培った知識・スキルを活かし、インテリアと医療を融合したプロジェクトを基とする、身体と心の健康を目指したインテリア・メソッド「Active Care®」(アクティブ・ケア)を提唱。
2018年「日本インテリア健康学協会(JIHSA)」を設立。医療機関との共同研究にも参画し、新たなインテリアの可能性に向け活動を進めている。


所属:
公益社団法人日本インテリアデザイナー協会(JID) 正会員
経済産業省 JAPAN DESIGNERS 登録
帝京大学大学院 公衆衛生学研究科
照明学会会員 日本頭痛学会会員