音のプロに聞いてみた~透析治療室の音をなんとかする方法(全5回)
にっぽんの病院・編集部(以下:NPB) 快適な空間の要素には内装や家具、照明などの目に見えるインテリアの存在が大きいですが、目に見えないもの、例えば香りや音も影響すると考えています。
このプロジェクトはその中でも特に「音」をテーマにしています。
そこで、まずは「音」についていろいろ教えていただこうと考えました。
心地よい音環境を作るには、まず敵を知るところから。そして、いずれはその音を味方にできればと思っています。どうぞよろしくおねがいします。
早速ですが、初歩の初歩、音の表し方から教えてください。
株式会社小野測器様(以下:小野測器) 音には3つの要素があります。
一つ目は大きさ。記事を拝見すると、騒音測定アプリをインストールされたようですが、その計測結果の単位はdBでしたね。これは音の大きさを表す単位です。
二つ目は音の高さ。単位は周波数です。学校で”音は波”と習ったと思いますが、その波が1秒間に何回あるかを表す単位です。波が多いと高い音、少ないと低い音です。一般に、人は20Hz~20,000Hzまでを聞き取れるといわれています。
三つ目は音色です。同じ大きさ、高さでも楽器によって違って聞こえますね。
今回のテーマにある「心地よい音」がどんな音なのか、そこには3つの要素がそれぞれ関わってくると思います。
(株式会社小野測器)
電子計測機器、電子応用機器、電子制御装置及びその関連機器などを製造・販売するメーカー。
本シリーズは、同社サイト内に掲載の「身近な計測」を執筆された石田康二氏がご担当くださいました。
NPB 「心地よい音」って、人によって感じ方が違うあいまいな表現だと思うんです。
例えば、大音量のヘビメタが好きな人と、雅楽が好きな人とでは、”いい音”が異なりますし、同じ自動車の音でも、サーキットなどで聞くときはワクワクする音ですが、家にいるときは騒音でしかありません。
一方で、無響室は静かですが、耳の奥の空気が吸い取られるような感覚がして、気持ち悪くなります。
何か、”このあたりの音なら、8割くらいの人が心地よいと感じる”、というような指標はあるのでしょうか?
プロジェクトの目標値として設定できるといいと思っています。
小野測器 心地よい音の指標は残念ながらありません。
心地よさは、今言われたように人の好みに依存しますし、同じ人であっても、状況によって、感じ方が異なるからです。したがって、心地よさや、うるささなどの感性的な聴感印象は、因果律が希薄だと言われています。
しかし、ある状況を設定しそれを想定して聴いた音を評価することによって、音を聞いたときに感じる要素感覚、例えば、音の明るさ、重厚感、豊かさなどを主観的に評価することは可能です。
主観評価の方法としてよく用いられるのは、SD法(semantic differential method)という手法です。SD法は、「明るい-暗い」「重厚な-軽薄な」「豊かな-貧弱な」といった形容詞の対を用いて、7段階や5段階で評価するというものです。標準的には、評価したい形容詞の対を10~20選択します。
この方法で得られた主観評価の結果と、それぞれの音の物理量(音の大きさ、高さ)と周波数特性の時間変化などから算出した物理指標との相関関係を見ることで、例えば、ある音の重厚感は、この物理量、物理指標が寄与しているということがわかります。
病院の透析治療室という場所で、少しでも安らぐ音環境にするためにどうすればよいかという問題設定をしたとき、状況はある程度固定できますので、現在の状況を調査した上で、主観評価実験と物理測定によって、改善案を提案することは可能だと考えます。
NPB 調査と主観評価実験と物理測定ですね。
早速、調査に協力してくださるところを探し始めます。
(にっぽんの病院編集部 2021/01/25)
音のプロに聞いてみた ~透析治療室の音をなんとかする方法
◆第1回 心地よい音とは? ~心地よい音と不快な音~
第2回 アナログ音とデジタル音はどう違う? ~Web会議の音声がしんどいのはなぜ?~
第3回 音を変える方法 ~大きさを変える方法、音色を変える方法~
第4回 機械はなぜ音がするのか?
番外編 透析監視装置の音・計測レポート
最終回 医療・福祉施設の音環境の改善に向けて